道教委の「どさんこアウトメディアプロジェクト」について学んでみた

どさんこアウトメディアプロジェクト

一部で話題の北海道教育委員会が掲げる「どさんこアウトメディアプロジェクト」について、北海道に住む一児の親として資料を読んでみた。

そもそも「アウトメディア」ってなに?

そもそもアウトメディアとはなんだろうか?「アウト」な「メディア」の「プロジェクト」?かなり危険な香りがする。

http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/sgg/messeage.pdf

によると

「アウトメディア」とは、電子メディアに接触する時間を減らすことを言い、電子メディアを排除するものではありません。電子メディアに上手に触れることで過度の接触時間を減らし、自分自身の時間・家族の団らん・人と人とのつながりの時間を大切にしようというものです。

とのことだ。教育委員会がこのような誤った英語を用いる輩をまず教育すべきではないか。

プロジェクトを立ち上げる動機

上記PDFの「メッセージ」を要約するとこんな感じ

  • 巷には電子メディア(テレビ、ビデオ、テレビゲーム、携帯用ゲーム、インターネット、携帯電話、スマートフォンなど)があふれている
  • 便利な反面、人間関係にマイナスの影響を及ぼしたり、心身の健康を崩すという新たな問題となっているという事実
  • 真っ先に影響を受けるのは北海道の未来を担う子どもたち
  • この憂慮すべき問題(電子メディアの悪影響を子供が受けること)の解決には家族の団欒、親子のコミュニケーション、家庭を支える地域の取組が必要
  • 子供が心豊かにたくましく成長できるよう支援するのは大人一人ひとりの責務
  • そこで推進するのが「どさんこアウトメディアプロジェクト」

つまり「便利だけど危険な電子メディアの影響から子供を守るための家庭での取組(アクセス制限と対話)」が必要なので立ち上げたプロジェクト、ということだろうか。一応は

「アウトメディア」とは、電子メディアに接触する時間を減らすことを言い、電子メディアを排除するものではありません。電子メディアに上手に触れることで過度の接触時間を減らし、自分自身の時間・家族の団らん・人と人とのつながりの時間を大切にしようというものです。

と言い訳しているが、文面からは「電子メディアに触れている時間は有害なので可能な限り減らすべき」という意思が感じられる。あと「電子メディア」って言葉も何ともセンスが悪いがとりあえず放置。

プロジェクトの目標

上記の動機で立ち上げたプロジェクト。目標は以下の三点とのこと。

  • ネット利用も含めた望ましい生活習慣の確立を目指します
  • ネットトラブルの根絶を目指します
  • ネット利用に関わる心と体の健康課題の解決を目指します

ネットネットと、もう「ネットアウトプロジェクト」って名前がふさわしいぐらいの目標だ。

○ ネット利用も含めた望ましい生活習慣の確立を目指します

一点目は「望ましい生活習慣」に若干の押しつけがましさは感じるものの賛成できる。

○ ネットトラブルの根絶を目指します

ちょっとまて。「根絶」とはまた大きく出たな。だいたい「電子メディア」へのアクセスを制限する(+家庭内の対話)、というプロジェクトでネットトラブル(おそらくSNSインスタントメッセンジャーを利用したいじめのようなものを想定していると思われる)が根絶できる、と道教委は考えているわけだ。まさに「臭い物に蓋をする」ことで問題は見えなくなると考えているわけだ。「教育」委員会は人と人のコミュニケーションで発生するトラブルを「人への教育」ではなく「媒介物の排除」で解決しようとしているわけだ。ならば「根絶」=「排除」とならねば何時までたっても達成は不可能となってしまう。「「アウトメディア」とは、電子メディアに接触する時間を減らすことを言い、電子メディアを排除するものではありません。」という言葉と矛盾してしまう。

○ ネット利用に関わる心と体の健康課題の解決を目指します

これも二番目と同様で「ネットの利用法や接し方」を教育するのではなくアクセス制限で課題解決を図るわけだからやはり最終目的は「根絶」にいくことになる。

プロジェクトの具体的なアクション

上記目標にむけて設定された具体的なアクションは以下の三つ。

  • 「ノーゲームデー」の設定・推進
  • 保護者や児童・生徒に対する学習機会の提供
  • 様々なアイテム(学習資料・チェックシート等)の開発・作成

「ノーゲームデー」の設定・推進

あれ?あれだけ目標にネットネット書いてあったのにいきなり「ノーゲームデー」???目標の二つ目と三つ目は完全にネット関係のことしか掲げていないのでおそらく一つ目の「望ましい生活習慣の確立」のためのアクションだと思われるが、特定の日に特定の電子メディアのみを排除することで目的は達成されるのであろうか。

どさんこアウトメディアプロジェクト ノーゲームデー

によると

「ノーゲームデー」とは・・・  ★ 毎月第1・第3日曜日を「ノーゲームデー」として設定しました。  ★ 大人も子どももゲームをしないで、電子メディアへの接触時間を見直す取組です。  ★ ゲームをしないで、「家族の団らん」を大切に「体験活動」や「読書活動」に親しみ、学校、家庭、地域における望ましいネット利用に向けたルールづくりの促進を図るものです。

ということで、道教委としてはテレビゲームを排除すれば電子メディアへの接触時間を見直す(削減する)ことが可能だ、と考えているようだ。そのうえで「「家族の団らん」を大切に「体験活動」や「読書活動」に親しみ、学校、家庭、地域における望ましいネット利用に向けたルールづくりの促進を図る」とのことだが、団らんを大切に体験や読書を親しむ、というのが意味不明(読書と団らんは両立せんだろ、というか書籍というメディアは紙だから制限する必要がないのか?)だし、体験や読書に親しんだら「学校、家庭、地域における望ましいネット利用に向けたルールづくり」が促進される、というのはますます意味不明だ。すごい文章すぎて、「この文を読んで筆者の心情を答えよ」と答えたら不正解間違いなしの大難問である。

単純にゲームのやりすぎを防ぎたいなら高橋名人の「ゲームは1日1時間(ゲーム以外にも楽しい遊びあるからいろいろ楽しもうぜ!)」の方がよほど説得力があるし、親に指導するなら現役ゲーム機のペアレンタルコントロールについて解説した方がよほど有意義ではないだろうか。

保護者や児童・生徒に対する学習機会の提供

一つ目より二つ目の方が教育委員会らしい活動かと思いきや

どさんこアウトメディアプロジェクト 学習機会

を見る限り、まだまだ機会は十分に提供されているとは言えないようだ。今後に期待。

様々なアイテム(学習資料・チェックシート等)の開発・作成

こちらも

どさんこアウトメディアプロジェクト アイテム

を見た感じだと、保護者向けの資料4つと調査報告一つだけとなっており、充実が必要に見える。

このアクションで目的は達成できるのか?

ここまでの内容を確認したところ、確実に目標の達成は不可能だろう。そもそもあれだけネットネット言ってるのに家庭に求める具体的な活動が「ノーゲームデー」ってどういうことだ。現時点で開示されている情報だけだと「ネットの利用が問題になってるからゲーム禁止」というわけのわからないことになっている。

そもそも最初に「テレビ、ビデオ、テレビゲーム、携帯用ゲーム、インターネット、携帯電話、スマートフォンなど」を問題にあげておいて制限するのがテレビゲームだけ、というのはいかにも不足である。テレビゲームだけが生活習慣の確立を阻害しているのであればそもそもこんなにあげつらうべきではないし、そうでないならもっといろいろな策を練らねば効果はないだろう。また、ノーゲームデーの意図である「「家族の団らん」を大切に」することに対して読書が良くてテレビゲームがダメ、というのが全然理解できない。家族でソーシャルリーディングでもしろというのか。家族で桃鉄やるのはだめなのか?モノポリーじゃなきゃ家族の団らんとはいわないのか?

また、このご時世において電子メディアを排除して読書を推進、というのも的外れだ。札幌市電子図書館の

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のような公共サービスすら否定するのだろうか。人口密度がダントツで低い北海道だからこそ距離のハンデを克服できる「電子メディア」の有効利用法や啓蒙を行うべきではないのか。だいたいネットワークやテレビゲームこそアクセスコントロールが容易なのだから、利用量とか時間帯とかで制限をかけやすいのにどうしてそういう知恵は働かないのだろう。

ここまで読んだ結論としては「本音と建て前がずれているように見えて訳が分からないし、何にしろ確実に失敗する」というほかない。